新聞講座で学校に行くと必ずやっていたのが、名簿チェックだった。目的はただ一つ、努くんを探すことだった。学校に行く期間は4年ほどあったが、結局見つからなかった。勉くん、勤くん、務くん、力くんもいなかった。
漢字1文字の名前自体が少数派になっている気がする。家にあったある高校の名簿で数えてみた。男子148人中、1文字が19人(12.8%)、2文字が121人(81.8%)、3文字が8人(5.4%)だった。並んでいる1文字名前を眺めてもなぜか親近感はあまり湧かない。同級生の名を思い出してみると…、あまり思い出せないので高校の卒業アルバムを引っ張り出してきた。1987年3月卒である。
採集年 | 1文字 | 2文字 | 3文字 |
1987年 | 26.7% | 69.3% | 3.0% |
2021年 | 12.8% | 81.8% | 5.4% |
想像していたほどには、昔は1文字が多かったというわけではなかった。もっと1文字が多いと思ったのは身びいきか、あるいは2文字は読みと漢字の組み合わせが多いので、印象に残らなかったのか。それはともかく、34年間で1文字名前は半分以下になっていた。
だんだんと無駄に気分が乗ってきたので、個々の1文字名前を見てみる。1987年と2021年で重複する名前は1例もなかった。母数が27人の1987年で、重複する名前は「勉」「努」「修」の3例。読みの重複は「つとむ」が4人、「たかし」「みのる」「ただし」「おさむ」が2人ずつであった。2021年の19人の中で重複するのは「悠」だけだった。読みは分からない。
1文字名前が増えてきているという記事もある。明治安田生命保険が毎年発表している赤ちゃんの名前人気ランキングを基にした日経電子版「エンタメ!」の記事「男の子の名前、1位は「蒼」 1字名が人気の理由は?」によると、2020年生まれのランキングでトップテンのうち6つは1文字名前だ。6つランクインするのは2016年、19年、20年とのことなので、盛り返しているという言い方もできるだろう。1文字が増えてきた理由として、記事では2文字優勢時代が続いて1文字に新しさを求めていると分析。「そう」「れん」といった愛称のような短い音節、男女ともに使われる名前が好まれていると書いている。
新しさを求めているのであれば、「つとむ」「たかし」「みのる」「ただし」「おさむ」の復活はあまり見込めない。だからどうということはないけれど、一番若いつとむくんは今何歳だろうかと想像してみたりする。こんなことを考えるのは、人類が理由もなく生殖できなくなって「最後の子ども」の死亡が世界的ニュースになる場面から始まる『トゥモロー・ワールド』の影響だろうか。