子ども向けに書く

NIE(エヌアイイーと読む。新聞を教材化すること)を担当していた頃、1コマの出前授業でやっていたのが見出しを空欄にして考えてもらうワークショップだ。国語の単元で新聞が取り上げられるのが小学5年生なので、すべての漢字に読み仮名が振ってあるこども新聞の短い記事を使った。

見出しを覆ってコピーした記事を配る。「この記事で大事な単語」を三つ選び、印を付けてもらう。数人に当てて三つの単語を挙げてもらい、黒板に書く。この場面で、漢字の書き順が間違っていたり、形がまともでなくても大人になれるのだという自信を持たせる。出揃ったら、紙面に載った見出しを大書したものを張り出して答え合わせをする。板書した単語のうち見出しに使われているものを丸で囲むのもよい。答え合わせの場面は「おおー」という声が上がって気持ちがいい。

解説編では(1)大事な単語三つで見出しができること(2)大事な単語は記事の第1段落にあること—-を伝える。補足として、見出しに完全な正解はないが、どの要素(単語)を採るかじっくり考えることで言葉を吟味する力、文章の意図を読み取る力がつくと説明する。時間に余裕があれば、別の記事を使って、今度は三つの単語を9〜11文字の見出しの形に直して書いてもらう。

見出しを構成する単語のうち、二つは子どもたちから挙げられるし、三つとも板書されていることも少なくない。ところが、ある日の記事は違った。ジョン万次郎のものとみられる肖像写真がアメリカで発見されたという記事だった。もちろん「ジョン万次郎」は挙げられたが、あとは「英語」「アメリカ」「漁師」「漂流」などで、「写真」「発見」は挙がってこなかった。不思議に思って尋ねると、彼らはジョン万次郎のことを知らなかった。彼らの気持ちになってみる。初めて知るこの片仮名交じりの名の人は、漁師であり、海で遭難して、アメリカの船に助けられて、英語を学んだらしい。知らない事柄については、ほとんどのことがニュースであり、大事な単語なのだと気付かされた。

それ以来、こども新聞に書くときは、本筋以外の情報はなるべく入れないようにした。子どもだから読解力が低いという訳ではない。ただ経験が少ないので知らないことは多い。万次郎の人生は興味深くて気になるけれど、この記事では写真が発見された意味について考えてほしい。そんな気持ちで書いてきたように思う。情報満載の記事は面白いけれど、それは大きくなってからのお楽しみに。こども新聞で慣れたら、大人の新聞にかえってきてね、と。

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