『論理が伝わる世界標準の「書く技術」』(倉島保美、講談社)は、認知心理学の知見から「分かりやすい文章」を考察している。本書によると、人間は短期メモリ(記憶)と長期メモリを組み合わせながら情報を処理している。短期メモリを机の上、長期メモリを巨大な書庫に例える。新しく入ってきた情報を机の上に置き、関連する情報を書庫から持ってきて組み合わせて処理していく。「自動車が赤信号で止まった」という情報が短期メモリに入ってきた時、長期メモリにある「自動車とは何か」、「赤信号は何を意味するのか?」という情報と組み合わせて理解していく。人は、この情報処理を高速化するために、使いそうな情報を予め書庫の前に移しておくという。この作業をメンタルモデルを作ると表現している。分かりやすい文章とは、読み手にメンタルモデルを作らせる文章なのだと論を展開する。
既知の情報から未知の情報につなぐように書くことで、読み手はメンタルモデルを作りながら読める、とさらに論は展開する。既知の情報から予想しながら読むことで、未知の情報を理解しやすい。未知の情報も既知になり、さらに次の未知なる情報へと進んでいく。
ここまで読んで気付くのは、新聞記事との違いだ。新聞記事は新しい情報が主役である。新たに明るみになったことを先に書き、これまでの経緯は後に回される。このあたりが、読み手とのギャップになってしまっているのかもしれない。