復帰の前に置く言葉

新聞社にいた頃、表記が揺れそうなときにはお触れが回った。と言ってもシステマティックなものではなく、気付いた個人が用語統一の必要をメーリングリストで訴えて、収斂していくという形だ。この時期だと、沖縄の復帰をどう書くか。大きくは「日本復帰」と「本土復帰」に分かれる。

基本的に記事では「日本復帰」を使う。日本という枠組みの中に戻ることなので、これが適当だろうと私も思う。対する「本土復帰」は、本土に戻ることはできないので違和を感じる。物理的にできないし、そもそも本土であったことがないからだ。とは言え、よく使われる言葉なので、広告や本人の言葉やイベント名としては「本土復帰」も載っている。日本政府と沖縄県行政は「本土復帰50年記念式典」というふうに歩調を合わせているようだ。NHKは「本土復帰」で一貫している。

「沖縄復帰」という書き方も目にする。「どこに・何に」ではなく、「何が」を入れる方法だ。日本語的には自分をあまり表に出さないので、沖縄以外のメディアとしては「日本復帰」より使いやすいのだろう。

復帰を求めていた当時の記事・写真を見ると「祖国復帰」という表現がほとんどだ。琉球王国が廃されて琉球藩となった1872年を起点にして、1945年の沖縄戦までが73年、その後「アメリカ世」になり、1972年の復帰までが100年。歴史を俯瞰すると琉球藩以前の琉球王国は約450年続いていたが、個人や家族の記憶としては73年間日本であった意味は相当に重い。

復帰から50年たった今「祖国復帰」はほとんど見ない。「祖国」には情念の重さがあり、「祖国復帰」には強い主張を感じる。祖国と呼ばなくなっていった50年間、米軍統治下の27年間、沖縄戦までの73年間。時間の折り重なりをじっくり学んでいこう。復帰の朝に思った。

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