「賢者の贈りもの」と”Living On A Prayer”

O・ヘンリーの「賢者の贈りもの」を読むと、頭の中にボン・ジョヴィの”Living On A Prayer”が流れてくる。どちらも苦しい暮らしの中でお互いを思いやる男女の物語だからだろうか。「賢者」の初版は1905年、Living–のリリースは1986年。ジョン・ボン・ジョヴィが「賢者」を読んで(というか、アメリカ人の血肉になっているのかもしれない)触発されたのかと検索してみたが、答えは探せなかった。

入ってきたジムは、鶉の匂いに気づいた猟犬のように、ぴたりと静止した。視線は間違いなくデラに合っているのだが、その目の表情が読めないだけにこわかった。怒った、驚いた、気に入らない、ぞっとする、というデラが覚悟していた反応とは別の気持ちがあるらしい。おかしな顔をして、じっと見つめてくるだけなのだ。

O・ヘンリー『賢者の贈りもの〜O・ヘンリー傑作選Ⅰ』(小川高義・訳、新潮文庫)

この場面のジムがオーディションの課題なら、役者にとっては腕の見せどころだろう。わずか20ページ。さらに著者が表に出る文も多いので実質的にはさらに短い物語なのに、二人の気持ちの揺れ幅が大きくて、読むこちらの心も動く。

80年後に世に出た”Living On A Prayer”では女性が強くなっていることに時代を感じる。最初のサビで「この手を取って、きっとうまくいく」と励ますのはジーナと明示されている。2番では、夜中に泣くジーナをトミーが「大丈夫さ」とささやいて同じサビに入る。英語だと男女が分からないのでトミーが励まし返しているようにも、ジーナがまた歌っているようにも思える。どちらにしてもいい話だ。こちらは芝居にせず、聞き手に委ねた方がいい気がする。公式MVのように。

新潮社「賢者の贈りもの」

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